第145号 2006・3・14

■■ はじめに ■■

みなさん、おはようございます。前回で、物権一般に関する解説は一応ですが、終わりました。

今回からは、物権の各条文の解説に入っていきたいと思います。

前回までに勉強したことをトピックだけ紹介しますので、それを見て思い出せないという方はバックナンバーを参考に復習しておいてくださいね。

まず、物権には「直接性」と「排他性」という性質がありました。

それから、「一物一権主義」というものと、「物権の優先的効力」というものがありました。

この4つのトピックの意味くらいはある程度思い出せるようにはしておいてください。

それでは、さっそくはじめましょう!!

第175条(物権の創設 物権法定主義)

物権は、この法律その他法律に定めるもののほか、創設することができない。

■■ 解説 ■■

さて、今日から条文の解説に入ります。

といっても、物権編の一番最初の条文なので、やっぱり抽象的なことが規定されています。

以前にも、お話しましたが、民法はパンデクテン方式というものが採用されており、共通するものを前に持ってきてありますので、最初の方の条文は抽象的で分かりにくいことが多いのです。

この175条も物権一般に関する規定で、いわゆる「物権法定主義」というものを定めたものです。

簡単に言うと、物権というものは、法律で定められているもの以外、当事者で勝手に作ることはできない、ということです。

このような規定が定められた趣旨は、一応2つあります。

1、封建的な権利関係を廃すること。
2、排他性を有する物権を限定し類型化することにより取引安全を図ること。

おそらく、これだけではさっぱり意味がわからないと思います。

1の方は、分かりにくいので、2の方で説明したいと思います。

物権と言うのは、直接性と排他性を有する極めて強力な権利であるということは以前に説明しました。

つまり、ある人がある物に対して物権を有すると、他の者を排除することができるのです。

他方で、債権はこのような直接性と排他性という性質はありません。

もし、このような権利を当事者が自由に創設することができるとすると、社会はとても混乱するのです。

後で解説する公示制度などとの関連で特に問題となります。

例えば、このメルマガは無料ですが、仮に有料のメルマガだったとします。

とすると、私はみなさんに対して「金を払え!」という債権を有することになります。

反対に、みなさんは、私に対して「メルマガを発行しろ!」という債権を有します。

これは、両方とも債権で、私たちとみなさんの合意で物権にすることはできません。

もし、みなさんが私に対して有している「メルマガを発行しろ!」という権利が物権だったとしたらどうなるでしょうか?

ある読者のAさんが、私に対して「メルマガを発行しろ!」という物権を取得した場合、Aさんは、その権利を私に対して直接行使することができるし、他の者を排除することができるのです。

つまり、他の読者であるBさんやCさんが私に対して「メルマガを発行しろ!」とは言えなくなるのです。

これが物権の排他性です。

しかし、メルマガを読むという権利がAさんという一人の読者に独占されると、メルマガの意味が全くなくなってしまいますよね。

たくさんの人が読めるからこそ、メルマガの価値があるのです。

このように、排他性という強力な性質を有する権利を勝手に当事者で創設されると困るのです。

そんなことを認めると、ほんとに社会が混乱します。

ですから、そのような混乱が起きないように、民法175条は物権は法律で定められているもの以外は創設することができないと規定しているのです。

■■ 豆知識 ■■

民法で明文で定められている物権は11個あります。

また、一つずつ解説していくことになりますが、一応名前だけ紹介しておきます。

所有権(206条〜)
地上権(265条〜)
永小作権(270条〜)
地役権(280条〜)
入会権(263条、294条)
留置権(295条〜)
先取特権(303条〜)
質権(342条〜)
抵当権、根抵当権(369条〜)
占有権(180条〜)

■■ 編集後記 ■■

今日も、抽象的な話でしたので、少し分かりにくかったと思います。

どんな条文でも、その趣旨がいくつかあることは多いです。

そういう場合は、全部覚えてしまうのは、難しいので、とりあえず最初は、自分が理解しやすいものにこじつけて覚えると効率がいいと思います。

今日の条文も2つ趣旨がありましたが、以前に説明した「直接性」と「排他性」という性質から説明しやすかったので、そちらに絞りました。

ただ、物権法定主義を説明する具体例が難しくて、自分で、でっちあげましたので、もしかすると適切でないかもしれません。

公示制度というものについて、解説した後に取引安全との関係で考えると理解が深まると思いますので、今はこのくらいにしておきます。

それでは、次回もお楽しみに!!

発行:株式会社シグマデザイン
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