第244号 司法試験 昭和57年度第71問 解説
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毎日3分!条文+豆知識で民法完全制覇! 第244号 2007・2・15
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■■ はじめに ■■
みなさん、こんばんは。
今日は、条文の解説ではなく、前回出題した問題の解説をしたいと思います。
次回からは、いつもどおり条文の解説をしていきます。今回から、お読みいただく方も、問題を載せておきますので、安心してください。
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■■■ 解説 ■■■
それでは、さっそく前回の問題の解説をします。
今回が初めてという方のために、問題をもう一度確認しておきましょう。
〜司法試験 昭和57年度第71問〜
甲は、乙からその所有の建設機械を賃借したが、故障していたため、丙にその修理を依頼し、丙は、自己の工場でその修理をした。この場合に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
1、甲は、丙に修理代金を支払ったときは、乙に対して修理代金相当額の支払いを求めることができる。
2、丙は、機械の修理後これを保管中、機械の機能を保持するために必要な費用を支出したときは、その費用の支払いを受けるまでは、甲からの機械の返還の請求を拒絶することができる。
3、丙は、甲からの修理代金の支払いを受けていない場合であっても、機械の修理後これを保管中に無断で使用したときは、甲からの返還の請求を拒絶することができない。
4、甲の丙に対する機械の返還請求訴訟において、丙が留置権の存在を主張してその権利主張の意思を明らかにしたときは、その債権について消滅時効の中断の効力を生ずる。
5、乙の丙に対する機械の引渡し請求に対し、丙が修理代金債権をもって留置権を行使する場合においては、乙が丙に対して相当の担保を供する旨の申し込みをするとともに留置権の消滅を請求する旨の意思表示をしたとしても、丙は、乙からの引渡しを拒絶することができる。
さて、どうでしょうか?
答えは、出ましたか?
結論から言うと、3番が誤っており、3番が正解となります。
ちなみに、この問題が出題された時の受験生の正答率は、58%くらいです。
ですから、当時は少し難しい問題だったのでしょう。
それでは、一つずつ解説していきますが、まず、事例を図にしてみましょう。
まず、甲さんが乙さんから建設機械を借りています。つまり、賃貸借契約ですね。
賃貸借契約をLと書きます。レンタルの頭文字であるLです。
次の、甲さんは、丙さんに修理を依頼しています。
そして、現在丙さんが、機械を占有しています。○が機械とします。丙さんのところにありますよね。
〜〜 1番 〜〜
甲さんは、丙さんに修理代金を支払っています。
そして、甲さんと乙さんには、賃貸借契約があり、修理代金というのは必要費にあたります。
ですから、甲さんは、乙さんに対して修理代金相当額を「必要費」(608条1項)として請求することができます。
したがって、1番は正しいということになります。
これは、留置権とは関係のない知識ですが、今までにも何回か話をしているので、判断できたと思います。
〜〜 2番 〜〜
丙は、必要な費用を支出しており、これは299条1項の「必要費」にあたります。
(さきほどの必要費とは根拠条文が違いますので注意してください。)
つまり、丙は、甲に対して必要費償還請求権を有していることになります。
とすると、この必要費償還請求権を被担保債権として留置権が成立します。
したがって、丙は甲の返還請求を拒絶することができることになり、2番は正しいということになります。
これだけでも答えは出るのですが、せっかくですから留置権が本当に成立しているのか留置権の要件にあてはめてみます。
留置権の要件は、
1、債権と物との牽連性(「その物に関して生じた債権を有する」)
2、債権が弁済期にあること
3、留置権者が他人の物を占有していること
4、占有が不法行為によって始まったものでないこと(2項)
でしたよね。
これを一つずつ本問にあてはめましょう。
まず、1の要件ですが、必要費償還請求権は、機械から生じたものですから、この要件は問題なく充たします。
次に、2の要件です。必要費償還請求権は、支出後直ちに返還を請求することができます。
ですから、当然弁済期にあることになりますので、この要件も充たします。
そして、3の要件ですが、丙は機械を占有していますよね。ですから、この要件も充たします。
最後に、4の要件ですが、丙は、修理の依頼を受けて占有を始めているので、不法に占有をはじめたわけではありません。
ですから、この要件も充たします。
したがって、留置権は成立しているということになります。
(このように、どんな問題でも瞬時に要件を思い出して、その要件に問題文の事情をあてはめるという癖をつけてください。)
〜〜 3番 〜〜
留置権者である、丙が機械を無断で使用しています。
これで思い出さなければならないのが、留置権消滅請求(298条3項)ですよね。
ただ、注意しなければならないのが留置権消滅請求を主張できるのは誰かということです。
ここで、留置権消滅請求の趣旨を考えましょう
留置権者が無断で物を使用すると、所有者は困りますよね。
ですから、無断使用された場合に、留置権消滅請求が認められているわけです。
つまり、無断使用されて困るのは、物の所有者です。
そこで、3番の肢をもう一度読むと、返還請求をしているのは甲です。
甲は、物の所有権者ではありませんよね。所有権者は、乙であり、甲は賃借人にすぎません。
甲にとってみれば、自分の物でないものを無断使用されたところで別に困りませんよね。
ですから、物の所有権者でない甲は留置権消滅請求をすることはできません。
したがって、甲は返還請求をすることができず、3番の肢は誤っているということになります。
〜〜 4番 〜〜
これは、以前にも解説したので、いいですよね。
この場合、時効は中断します。分からない方はバックナンバーで確認しておいてください。
ただ、1点だけ注意があります。
この時効中断というのは、完全な時効中断ではなく、暫定的な時効中断であるということです。
つまり、153条の催告と同じと考えられていますので、完全な時効中断をしたければ、6ヶ月以内に裁判上の請求などをする必要があります。
〜〜 5番 〜〜
これは、何のことを言っているかわかるでしょうか?
301条の担保の供与による留置権の消滅請求のことです。
債務者は、相当の担保を供すして、留置権の消滅を請求できるわけですが、これは、あくまで契約なのです。
つまり、留置権者である丙が承諾してはじめて効力が生じるのです。
ですから、丙が承諾しておらず、乙が一方的に請求しているだけの本問では、留置権はまだ消滅していません。
さきほどの、無断使用した場合の留置権消滅請求と区別してくださいね。無断使用の場合の留置権消滅請求は、留置権者の承諾は不要です。
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■ 編集後記 ■
さて、どうだったでしょうか?少し詳しく解説したので、難しく感じられた方もいるかもしれません。ただ、今日出てきた知識は、今までに全部解説したことばかりです。
分からないという方は、バックナンバーで確認しておいてくださいね。
実際は、知識だけで解けるのですが、しっかり要件からあてはめて解くというやり方になれてもらいたくて、難しいと思われるのを承知の上で詳しく解説しました。
単に知識だけで解いていると、自分の知らない知識が出てきたらアウトということになります。
しかし、要件からあてはめる考え方をしていると、知らない知識が出てきてもその場で実際にあてはめればどんな問題が出ても判断できるのです。
いろんな条文が出てきたりと難しいかとは思いますが、いろんな条文を行ったり来たり繰り返すことが大事です。
ぜひ、がんばってください。
この問題が解けたという方は、日本で最難関の試験と言われている司法試験の問題を解くことができたということです。自信を持ってください。
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(裏編集後記)
今、友達の会社の登記を変更しています。
勉強している会社法が、どうやって実務で使われているのか勉強になって、おもしろいです。
関連条文
・第277号 民法 第350条 (留置権及び先取特権の規定の準用)(20072828)
・第276号 民法 第349条 (契約による質物の処分の禁止)(20072828)
・第274号 民法 第347条 (質物の留置)(20072828)
・第273号 民法 第346条 (質権の被担保債権の範囲)(20072828)
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